アイドルはゴールデンウィークの夢を見るか?/「夜は空いてる」考察と感想

あなたにとって『アイドル』とはどんなものでしょうか。

私は性別や次元を問わずアイドルという概念が大好きなのですが、今年のKAT-TUNのライブツアーであるHoneyで見た亀梨くんの表情や表現や歌声のひとつひとつがあまりにも魅力的で、『アイドル』のイデアがあるのならそれは亀梨和也の形をしていてほしいと思って終演後に上のツイートをした。私の担当は上田竜也くんなのだけど、亀梨くんの完璧なアイドルっぷりにはいつも惹かれてしまう。

そんな亀梨くんの今年のソロ曲『夜は空いてる』の演出(と歌詞)は、一度見ただけではなかなかかみ砕けず、最初に見てからその次の公演のある翌日まであれはどういった意味をもつのだろうと考え込んでしまうようなものだった。代々木の5公演を通して自分なりの解釈が固まったため、ここに残しておきたい。

結論から言うなら、私はこの曲をアイドルの亀梨和也からファンに向けた祈りの曲だと思った。亀梨くんに限らず、アイドルとファンの関係を歌った曲であると思うが、亀梨くんが歌うことに大きな意味があると感じている。

いらないの?いてよ

『夜は空いてる』の中では「いらないの?いてよ」というフレーズが何度も繰り返されるが、「いらないの?」のあとに「いてよ」という言葉が来るのはすこし不自然だ。「いらないの?」と何かの要不要を問うなら、続くのは「必要としてほしい」という内容であるほうが自然だろう。「いてよ」というここにいることを要求する言葉でも意味が通らなくはないが、やや違和感が残る。ライブに行くまではそれを不思議に思っていたが、これがアイドルとファンの関係を歌った曲であると解釈してからは腑に落ちた。
アイドルは、自分からファンに会いに行くことはできない。ライブやイベントを全国各地でやったとしても、そこにファンが足を運んでくれなければ会えず、ある意味待っていることしかできない。「いらないの?いてよ」は、「捨てないで、変わらずここ(ライブ会場)にいてよ」というアイドルからファンに向けられた祈りだ。

少し脱線するが、私が=LOVEという今大人気のアイドルグループの楽曲の中で一番泣けると思っている『現役アイドルちゅ~』という曲がある。曲調や歌詞はポップで楽しく、アイドルをやっている女の子の心情を歌ったかわいらしい曲なのだが、

なーたんは そう 早起きして
2人の時間を
(楽しみにしてるから)
握手会 コンサート 会いに来て
君のハッピーなその顔 ずっと覚えているわ
今週も 来週も 会いたいなぁ
オシャレなお洋服も準備して待ってるね

という一節に涙腺が刺激されてしまう。これはオタクなんかに会いたいと言ってくれる優しい嘘に泣けるというのはもちろんだが、アイドルはファンが会いに来るのを待つことしかできず、もし仮に(万が一)もう来なくなったファンにまた会いに来てほしいと思ってもアイドルの側からできることなどなにもないという部分に切なさを覚える。

明日もあいしたい baby
腕の中にいてよ
小さな愛の面影が消えちゃう

愛しかない世界に いるから
いらないの?

アイドルというお仕事はたくさんの人に愛されるお仕事であると同時に、たくさんの人を愛するお仕事だ。
ライブで『夜は空いてる』を聞きながら、ふと『推しが武道館いってくれたら死ぬ』のあるページを思い浮かべた。


(『推しが武道館いってくれたら死ぬ』5巻P148)
もし自分の愛を受け取ってくれる人が一人もいなくなれば、アイドルは存在できない。ファンは推しているアイドルが目の前からいなくなってもなんだかんだで生きていくことができるが、アイドルはファンが一人もいなくなってしまったら、アイドルとしては死んでしまう。そんな中で、何度も「愛させて」と静かに歌っているのがこの曲だとしたら切ないな……と感じる。

曲の最後、アウトロの途中で曲が止まって真っ白な照明がついて、亀梨くんのいる部屋のセットに白い布がかけられ、ほとんどの家具は持ち去られてしまう。亀梨くんはそれまで座っていた一人掛けのソファを立ち、ただ部屋が空っぽになっていくのを見つめている。部屋には白い布のかけられたソファだけが残り、そこに再び亀梨くんが座って照明が消え、アウトロの続きが流れて曲が終わる。この演出がどういった意図なのかいろいろと考えたけれど、私には「消費されること」を表現しているように感じられた。ありとあらゆるものを差し出して消費されて、なにも残っていなくても、それでもアイドルでいる以上はステージに立ち続けて消費され続けなければならない。なにもない部屋で白い布がかけられたソファにぽつんと座っている姿は、すり減ってもすり減ってもファンに愛を差し出し続けるアイドルを表しているのだと思った。

アイドルをやめて一人の人間として生活すれば、たとえ誰からも愛されなくても誰も愛さなくても存在できるし、他者に消費される必要もない。けれど、アイドルとしての自分と人間としての自分がすっかり癒着してしまって、切り離せなくなってしまっていたらどうなるのだろうか。

5/4の代々木公演で、東京公演をやるのはかなり久しぶりという話題から、ホテルじゃなくて自宅に帰って朝また来るのは不思議な感じがするよね、という話になった。そのとき亀梨くんが「(朝起きて)そうだ、亀梨やらなきゃって……」と言ったのがとても印象的だった。「アイドルやらなきゃ」ではなく、「亀梨やらなきゃ」なんだ……と思い、少し驚いて、それから亀梨くんが日ごろから背負っているものの大きさを想像した。ジャニーズはだいたいみんな芸名ではなく本名だとどこかで聞いたことがあって(違ったらすみません)、それなのに亀梨くんにとって「亀梨」は人間の亀梨和也ではなくアイドルの亀梨和也を指しているのだろうか、と心配にもなった。
私はKAT-TUNを好きになるまでジャニーズのことを全然知らず、KAT-TUNが何人組かも知らなかったのだけれど、KAT-TUNが亀梨くんのいるグループだということだけは認識していた。それほどに亀梨くんはKAT-TUNの顔で、秋元康風に言うなら、「KAT-TUNとは亀梨和也のことである」と言っても過言ではないはずだ。10周年のライブで、「KAT-TUN亀梨和也でいなくてはと思うこともあった」と話してくれたことも記憶に残っている。常にKAT-TUNの先頭に立ち、完璧なアイドルでいることの重圧はどれほどのものだろう。そんな風に17年以上も生きていたら、アイドルの亀梨和也と人間の亀梨和也の境目を見つけるのはどんどん難しくなっていくのかもしれない。そんな亀梨くんが祈るように「愛させて、ここにいて」と歌うから、こんなにも見る人の心を揺さぶるのだと思った。

これは余談なのですが、「アイドルと消費」というテーマで記憶に新しいのは昨年秋に上田くんが出演していた舞台『Birdland』である。上田くん演じるポールは大人気のロックスターで、たくさんの人に愛され、消費されながら狂っていく。作中では暗に「ポールを苦しめているのはお前ら消費者だ」と何度も客席に語り掛け、終盤ではポールが怯えながら「あいつらが俺を見てる……」と客席を指さし、客電が点く演出がされる。
私はこの舞台が本当に無理でした……
「愚かなジャニオタに真実を教えてやる」という作り手のドヤ顔が透けて見えるようでうんざりしたし、そもそも「アイドルと消費」なんてこの令和の世ではベタベタに手垢のついたテーマでこんな陳腐な表現をされましても……と思った。ドヤ顔したいならあと5回くらい捻ってほしいし、今Twitterで大流行中の漫画ガチ恋粘着獣のほうが100倍くらい的を得ている。
まぁあんまりBirdlandの悪口書くのもあれなのでこれくらいにしておきますが、今年のツアーでの上田くんのソロ曲(Lollipop)は明らかにBirdlandから着想を得たものだった。けれど、上田くんが目をつけたのは「消費」というテーマではなくポールの狂気のほうで、そこに上田くんの感性を感じて面白かったし、「消費」をテーマにした(と私は思っている)ソロ曲をやるのが亀梨くんなのが興味深いなと思った。

また、代々木公演のMCでもうひとつ印象的な会話があった。世間はゴールデンウィークだという話から、「土日はやっぱり外に出づらいよね、時間とかにも気を使うし……」と亀梨くんが言ったのに対し、上田くんは「特に気にしたことがない」と答えたのだ。上田くんは過去のキャラ変がたびたび話題に上がるように「こういう自分でありたい」という強固な理想があってそこに突き進んでいくが、アイドルとしての自分を作り込むようなことはしない。それに対し、亀梨くんはどこまで計算でアイドルをやっていてどこまでが素なのかわかりづらくて、そんなところがとてもアイドルらしいと感じられる。今回のツアーで偶然にもふたりのそんな対比が見られたのが良かった(中丸くんはソロ曲のために衣装替えに行っていていなかったのだが、もし中丸くんがいたらどんな返答をしていたのか聞いてみたかったなと思う)。

こうして好き勝手なことを書くのも消費のうちで、あまり良くないことをしているのだろうなと思う。けれど私はアイドルがいなくてはこのつまらない世界をとても生きていけないし、アイドルだってアイドルとして生き始めてしまったからには誰かに消費されなくてはアイドルでいられない。亀梨くんが「いてよ」と言ってくれる限りは、(できる限り負担にならない形で)ファンでいたいなあと思う。

あとは細々とした演出の話なのですが、亀梨くんのステージと客席の境を曖昧にして新しい空間を作り上げるような演出が好きだ。
『夜は空いてる』と似たようなテーマを扱ったソロ曲で『CAN'T CRY』があるが、私はこの曲の演出も大好きである。1番を客席で歌ったり、2番は丸々ステージで歌わずコンサート会場のロビーで撮った映像を流したりと挑戦的であり、気がつけば曲の世界観に没入している。
今回の『夜は空いてる』での特に好きな演出は、モニターに夜の歩道橋の映像を流し、それに合わせて花道でオレンジ色のぼんやりとしたライトが光っている演出だ。客席はペンライトを消していて、他の照明も消えているので、本当に夜道のような薄暗さでライブ会場でこんな風景が見られることが新鮮で面白く、また先ほどまでいたライブ会場とはまた違う場所にいるように感じられる。

それから、亀梨くんのいつもあんなに強くてかっこよくてKAT-TUNらしいのに、『夜は空いてる』で見せるような儚くてとても触れられないような表現もできる振れ幅も好きです。成人男性を見て消えてしまいそうだ……と思うのは亀梨くんを見たときだけ……。
亀梨くんの作る世界をもっともっと見たいし、次のツアーのソロ曲も楽しみです。さすがに気が早い。